はいぼく

 子供が1人、海岸で倒れていた。

 目を開けて空を眺めながら、ただただぼーっとしていた。

「あーあ、わたしがいちばんさいきょーだってしょうめいしようとしたら、こんなになっちゃった。」

 この子供は先ほど、この海で一番強いといわれる<さめさん>を倒しに向かい、見事に返り討ちに逢ってしまったのだ。

 言葉巧みに交渉をし最後の力を振り絞って逃げ切ったのだが、<さめさん>から逃げ切れたと同時に安心したのか気絶してしまった。目覚めると海岸に打ち上げられて空を見上げる格好になっていたのだ。

「わたし、さいきょーじゃなかったんだ……いままで、さいきょーとよばれるつよいやつたおしてきたのに、まださいきょーがいたんだ……。」

 これまでこの子供は、ありとあらゆる強者をいろんな手を駆使して屈服させ、自分の力を認めさせてきた。いよいよこの世界の<さいきょー>になるべき時に子供なりの欲や傲慢が出たのだ。

 

 あいてのどひょうのうえでかちたい、と。

 

 結果は散々だった。確かにこの子供は力を持っていたが、今までも地形を事前確認からの利用や時間帯の操作、呼び出し場所の詐称を用いてやっと強者に勝ってきたのだから、今回もそうするべきだった。

 そうすれば負ける事無く仕留めていた可能性もあった。

 

 この子供も今はそう思っている。

 だが、そう思った時には既に海岸でゴミの様に打ち上げられていたのだから遅い。半端に強い力を持っていたが故の失態だ。

 

 身体中が痛みを訴える。唯一痛まないのは右手だけ。

 思いっきり攻撃をするために右手に集めた魔力が逆に防御としての機能を果たしたらしく、どこも痛みを感じなかった。攻撃は最大の防御というが、まさかこんな形でそれを表すとはこの子供も、この言葉を作った人も思わなかっただろう。

 右手で空の何かを掴もうとする様に伸ばして子供は呟いた。

「どこもいたまなければ……わたしはまだたたかえたの……。からださえきずつかなければ……。」

 そして、その右手も力なく崩れた。